「すっげぇ顔」  酸素が足りずにぼーっとしたリクの頭は、星のその掠れた声が意味することをすぐに理解できなかった。  数秒遅れて把握する。たまらず抗議しようと口を開きかければ予告もなく指を引き抜かれ、喘ぎ声に返還される羽目になってしまった。 「……ああ………っ」 「ん?」  瞬間、ひくりと蕾でその指を締め付けてしまった。ただの生理現象であるというのに、これではまるで名残惜しいかのようだ。じっとりと濡れた目で星が口元で弧を描き、あまりのいやらしさにカッとリクの顔が赤く染まる。 「早く欲しい?」 「………………」  何様だ。リクは言葉を返す代わりにきつく睨み付けたが、怯むでもなくさらに目を細められる羽目になってしまった。 「それで怒ったつもりかよ」 「なっ」 「悪いけど、それ煽ってるだけだぜ?」  さすがにむかっときた。抗議してやるつもりでソファに寝そべっていたリクが身体を起こした。  すると、星がリクのその腕を掴む。そのままリクの身体を反転させて、リクはソファの背に向かって座り込む形となる。  リクの目の前にソファの背とその上にガラス窓。そして星は背後に立ち、リクの腰を軽く引き寄せた。 「な、なに、…?」 「今日はこっち」  一瞬意味を取り損ねて、何が、と聞きそうになってしまった。  すぐに意味を知る。背後位は、リクの苦手な体位だ。 「ま、まて、…………っん、んああ………っ」  リクの制止の声は、そのまま喘ぎ声に返還される。  先ほどまで星の指を飲み込んでいたそこに、質量の異なるそれが一気にはいりこんできた。ねじ込むときにリクの感じる部位を思い切り擦り上げられ、リクはたまらずソファの背にしがみ付く。しがみ付くものが、それしかないので。  普段なら、星の肉を思い切り掴んでやるのに。その握力に星が顰める眉をうっすら見るのがリクは好きだ。背後位では、その表情を楽しむことが出来ないというのに。いつも通りであるという安心感と、相手をよく知ることが出来るという意味と、ふたつの意味で、リクは正常位が好きである。  それはそうと、今この時によそ事を考えている暇などない。  目の前がちかちかする。リクは、この苦しいほどの衝撃に弱かった。乱暴にされているようなものであるというのになぜか満たされるようで、リクの身体は余計に反応する。挿入される、それだけで達してしまいそうになり、ぎゅっとなかを強く締め付けてしまった。 「…………っは、あ、ああ………ッ」 「………っぃ、………っあー、やべ…………」  背後で星が唸る。星も、けっこう危なかったらしい。ざまぁみろだ。  リクは乱れた息を整えながら、小さく笑う。すると、そんなリクに起こったかのように星がぐりんと性器をねじ回した。 「あっあっ、んん……っ」 「何笑ってんだよ…っ」 「んんっ」  なんで、分かるというのか。今日は背後位だと言うのに。  振り向こうとして、視界の端に窓枠がはいりこんできて、そこで気付いた。リクのすぐ目の前には窓がある。そして、そう言えば、今日はカーテンを閉めていない。  夜分、灯り越しに窓を見ると鏡のように反射するのは言うまでもなく。  リクは、つい顔を上げてしまった。窓には、リクを見下ろし格段に意地わるく笑う星が映し出されていた。 「お、お前、……っ」 「ん?」  ようやく、今しがた背後位である真意を知る。リクはカーテンに手を伸ばした。冗談じゃあない。灯りのともった部屋の様子は外側からよく見える。つまり、……その先の惨事は考えたくもない。 「閉めんじゃねーっつの」 「っば、…!誰かが、……っ」 「いいじゃん、大丈夫、っしょ」 「んんっ……!」  星は律動を開始した。  先ほどまでぎりぎりであったリクの身体は、ほんの少しの刺激を与えられただけでまたすぐに先ほどの状態まで戻ってしまう。リクの性器は反りあがり、律動に合わせてふるふると震えている。  イキそうだった。もうあとほんの少しでいい。決定的な刺激が欲しい。出来れば今すぐに。けれども星が期待に応えてくれるとは到底思えず、リクはあえなく自身の物に手を伸ばしそうになっていた。恥ずべき行為をしそうになっていたリクを現実に引き戻したのは、星だ。 「見ろって」  快楽を享受しきってぐずぐずになっていたリクの頭を、星が起こす。 「……………ア、……ッ」 「俺、さっき、すげえ顔って言っただろ?」  すぐ目の前の自分自身と目が合う。 「…………俺、いつもこの顔に煽られてんの」  リクの想像以上に酷いものであった。眉は垂れて目の視点はきれいに定まっておらず、口は薄く開いている。  恥ずかしい。リクは眉間に皺をよせ、窓越しに睨み付けた。けれども、星の熱の孕んだ熱い視線によって、逆に射止められてしまう。そんな目に見つめられて耐えられるはずもなくすぐに視線を逸らしても、俯いてきつく目を閉じても、まだ見られていると分かる。 「……だから、睨んだって、無駄だって言っただろ」  ごくり、とリクは息を呑んだ。すぐ背後で、星も同じく息を呑む気配がした。 end