あるのどかな昼下がりの荒川河川敷。 P子がいつものように野菜に水やりをしていた時、ふらりとニノが現れた。  「あらニノ!どうしたの」  「おお、P子」 あまり表情の変わらないニノだが、口元を緩めて笑う。でもすぐ元通り。  「実は相談があるんだ」 と、珍しく真剣な顔をする。ぐだぐだの空気がそこかしこで流れる荒川にとって似つかわしくない。  「相談…?」  「えぇぇ!?あのリクの部屋から星が出てくるのを見た!?」 驚いて叫ぶP子にニノはこっくりと頷く。 なぜそんなに驚くかってリクと星は犬猿の仲と言ってもいいほど仲が悪い。 それなのになぜそんなことが、とP子はパニック状態だ。  「まさか浮気…?」 あり得ない考えが口から出てハッとして両手で押さえたが、時すでに遅し。 でもニノは金星人だから感情を大きく出せないんだもん。 その時、  「それは聞き捨てならないわね」 どのあたりから聞いていたのか分からないけど、どこからともなくマリアが登場。 女子ひいきのマリアさんの手前、浮気なんて言葉聞かせちゃいけません。 だって、どんな言い訳しても勝ち目ゼロだし。  「あっ…聞いてたの?」  「もちろん。…それにしてもこんなにカワイイ彼女がいるっていうのに浮気?ニノちゃんに失礼よ、そんなの」 分かりやすいぐらいの殺気を放ちにっこりするマリアは呪詛でも吐きそうな勢いだ。ニノは「待ってくれ」となだめる。 とりあえずリクと星の命の危機は今のところなくなる。  「でも何か借りに行っただけかもしれないし」  「分からないわよ?もしかしたら、もしかするかもしれないんだから」 P子は自分のことのように不機嫌さを露にする。 なんだか変な方向に話がそれてしまっている。 ニノが内心どうしようかと思っていた時、遠くに見えるリクの部屋の扉が開いた。  「あ、ニノ見て!」 P子が指差すのを見ると、問題のリクが部屋から出てくるというところだった。  「…別段怪しい様子はないわね」 マリアは注意深くリクを観察する。 どうやらニノの言っていたことは今日の事ではないらしい。  「今日は何もないのかしら?」 P子もじっと目を凝らしていたが、リクが出たすぐ後に星が出てきた。 「「!!!」」 これにはさすがのマリアも驚いていた。 2人が豆粒ほど小さく見える場所にいるので声までは聞こえないが、明らかに仲が悪い風には見えない。 瞬間、ニノ達のいる所にマリアはいなかった。さすがというべきか。 一方、当の本人達はというと、  「…本当にバレてないだろうな」  「大丈夫だって、昨日もちゃんと周りよく見て来たし」 まだ自分達の身の危険には気づいていない。逃げろよ二人共。  「それは何のことかしら?」 音もなく現れたマリアに2人は驚いて荒川に落ちそうになった。 なんとか耐えてマリアに向き直り、二人は青くなる。  「何って、何のことデショウカ」 片言については聞かない方向に。すかさずマリアは返す。  「バレてないとか、周りをよく見たとか」 分かっているくせにあえて本人達から言わせようとするあたり策士である。 満面の笑みで2人を追いつめてゆく。  「え、えーと、その、ですね……」 なにとなく星はズボンのポケットに手を入れた。すると指に覚えのある感触が。 それはなぜか知らないけどホチキスだった。 どうしてポケットにホチキスが入っているのかというのは言わないでおきましょう。 話の都合、大人の事情ってヤツです。  「コレ!ホチキス借りに行ってたんだよ!いやー、俺んちホチキスなくてさあ。  別に借りたくもねーけど仕方ないからリクのところに借りに行ってたんだよ!なーリク!!」 と、変な汗をかきながら頼んでもない憎まれ口をわざと叩きひきつった笑みでリクに振り返る星の芝居に乗ってやる。 乗らないと生きていけないと思うし。  「そ、そうなんですよ、ホチキスの芯ぐらい買いに行けばいいのに面倒だからって  わざわざ俺の所まで来て何なんでしょうねー本当にあはは」  「あらーそうなの。私の勘違いみたいね、じゃ」 驚くほどあっさりとマリアは引き下がった。去って行くマリアの後ろ姿が見えなくなった瞬間、星とリクはへなへなと座り込んだ。  「なんじゃありゃああああっ!!殺気で死ぬかと思った…」  「ま、まあ今日の所は何もなかったし良しとしようぜ」 2人そろって渇いた声で笑った。 次の日。 まあお約束というか思った通りというか。マリアとステラが同時に星とリクを襲撃し、 2人は橋の下に仲良く吊るされた。しかも亀甲縛り。土手のドMだ。 水分不足で解放されるまでの様子はさながら干物のようだったとのこと。